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前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

嫌がらせ球宴

「嫌がらせ球宴」 (2003.6.15)


 「カール・ハッベルが投げ、ベーブ・ルースが打つ、そんな夢のような試合を見てみたい」アメリカのメジャーリーグでオールスターゲームが始まったのは1933年。開催のきっかけは、ある少年がシカゴの新聞社に送った一通の手紙だったという。スター選手の対決を見てみたいという、野球をこよなく愛するファンの熱い思いが、ドリームゲームの根本であった。

 時は流れ、70年後の日本。オールスターファン投票に怪現象が起きている。先発投手部門で、中日の川崎が阪神の井川に次いで2位。6月12日現在で約3万票差。投票の締め切りまであと10日だが、川崎がトップで選ばれる可能性さえ出てきた。

 川崎は、巨人キラーとして期待され、FAによって中日に移籍した。今年で3シーズン目になるが、怪我の回復が思わしくなく、いまだに一軍での登板機会はない。そんな投手に何故このような膨大な票が集まるのだろうか。

 引き金は、インターネットの掲示板に掲載された川崎への投票を促す呼びかけだという。恥をかかせてやろうというえげつない心理が潜んでいるようだ。決して、彼に対する温情ではない。

 日本野球機構によると、、インターネットを使った投票は1人5回までとしているが、なんと1台のパソコンから1日1000通を超える川崎への大量投票もあったという。不正投票に対して、名前や住所などの入力項目を増やす対策を講じたが、依然川崎票は伸び続けている。

 こういう事態を考慮しなかった機構側がお粗末だったのだろうか。インターネット投票を導入したのは、ファンの裾野を広げるためであったはずなのに、暇人が無意味な投票を繰り返すから、おそらく来年は投票方法に見直しがかかるだろう。しかし、システムがいけない云々の話は、例えばスピード違反で捕まった場合に、100Km/h以上出るように設計されているこの車が悪いと責任転嫁するのと同じくらい低レベルだと思う。要は、投票する各人の道徳上の問題である。

 川崎は給料泥棒だ、憤懣やるかたないという人は、手紙なりメールなり、球団に送ればよい。オールスターファン投票を無茶苦茶にしないでいただきたい。

 真のプロ野球ファンなら、オールスターゲームの価値をわかっているはずだ。川崎に投じる一票がどれほど彼を追い詰めるかも知っているはずだ。ファン投票は人気投票という面もあり、さほど実績のない選手がランクインすることもあり得るが、川崎の件はまったく意味が違う。彼が今どうしているかなんてちっとも気にせず、ふざけて投票している。インターネットという媒体を使って、川崎という投手を1位にしようというゲームを楽しんでいる。プロ野球という領域のなかでおこなわれている、まったく異質のゲームである。そこには、プロ野球への愛情などかけらもない。怪現象ではなく、不快現象だ。悪意の影が見え隠れする不快現象でしかない。

 ゲームに高じている人には、ぜひ一度、野球場へ足を運んでいただきたい。子どもたちが投票用紙と睨めっこしながら、一生懸命に鉛筆を握っている。羽毛より軽く、血も通っていない、ゲームによる一票は、ファンが膨らませる風船を突き刺す針であることを知って欲しい。




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